サーバーレスとは?開発の効率化の実現について解説
2024.06.14(金)
- ITインフラ
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「サーバー導入」というと、高額な費用や運用に手間がかかるイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。かつて物理的なサーバーが主流だったころは、実際に多くの費用や手間が必要でした。しかし、技術の目覚ましい進歩によりサーバーレスの技術が生まれ、物理的なサーバーを必要とせず、管理の手間がかからない環境を構築できるようになりました。
本記事では、サーバーレスの基礎知識やメリット・デメリット、導入・運用する際の留意点、サーバーレス導入がおすすめの企業について解説します。また、AWSサービスを例に代表的なサーバーレスサービスも紹介します。実際のサーバーレスサービスを理解して、サーバーレスを業務で活用するイメージを膨らませてください。
サーバーレスとは

まず、サーバーレスを導入・運用する前に知っておきたい基礎知識について解説します。
サーバーレスの概要
サーバーレスとは、クラウドサービスの一つで、開発者がソフトウェアやアプリケーションなどを開発する際に、サーバーの設定や運用管理を意識せずにソースコードを実行できる仕組みです。
クラウドサービスの事業者がサーバーの管理を行うため、開発者はプログラミングやそのほかの中心的な開発作業に集中でき、開発の生産性向上につながります。開発者は作成したソースコードをクラウド環境にデプロイするだけで、クラウドサービスの事業者により適切な実行環境が自動で割り当てられます。
「サーバーレス」という名前の意味
「サーバーレス」を直訳すると「サーバーが存在しない」という意味になります。しかし、サーバーレスはサーバーが存在しないことではなく、開発者がサーバーを意識する必要がないことです。
従来の開発では、開発者にも一定のインフラ知識が必要とされ、インフラの知識がなければプログラムの実行が難しい場合もありました。しかし、サーバーレスにより開発者のインフラ関連の負担が減り、インフラの専門知識がなくてもアプリケーションの開発が可能となりました。
仮想サーバーや仮想マシンとの違い
仮想サーバーや仮想マシンの環境で開発を行うと、開発者がその設定や管理を行う必要があります。一方、サーバーレスの環境であれば、開発者が仮想サーバーや仮想マシンの管理を行う必要はありません。
また、サーバーレスは使用したリソース量にもとづく従量課金制であり、実際に使用した分だけ料金が発生します。仮想サーバーや仮想マシンは、固定料金制や固定のリソースにもとづく課金が多い傾向があります。そのため、サーバーレスのほうが、利用状況に応じたコストの最適化を図りやすいでしょう。
サーバーレスの種類
サーバーレスにはいくつかの種類があり、業務内容によって最適な種類は異なります。各サーバーレスの特徴を把握し、状況に応じてサーバーレスを使い分けましょう。
FaaS(Function as a Service)
FaaSは、関数(ファンクション)ごとに処理の実行を可能とします。関数とは、プログラムで用いられる処理のまとまりです。FaaSでは、ユーザーからのリクエストがあると、リクエストがAPI Gatewayに渡されます。そして、API Gatewayを経由して、リクエストに応じた関数が実行されます。
関数は、ある関数内の閉ざされた処理だけではなく、関数から別の関数も呼び出せます。複雑で分岐の多い処理も、複数の関数を組み合わせれば効率的に実装が可能です。また、開発者ごとに作成する関数を決め、チームで協力しながらより大きな機能を構築することもできます。
FaaSは、数多くのプログラム言語に対応しておりミドルウェアによる制約も少ないため、Webアプリケーションのバックエンド処理から、IoTデバイスからのデータ処理、自動化スクリプトの実行まで広い範囲の開発で使用可能です。代表的なFaaSには、AWS Lambdaがあります。
BaaS(Backend as a Service)
BaaSは、アプリケーションのバックエンド機能をクラウドサービスとして提供するサーバーレスです。一般的には、データベース管理、認証、クラウドストレージなどのバックエンド機能を提供しています。
開発者はバックエンドの構築が不要なため、開発期間の短縮につながります。代表的なBaaSはAWS Amplifyです。
イベントドリブン
イベントドリブンは、サーバーレスのなかで、特定のイベントの発生をトリガーとして、自動的に処理を実行する仕組みです。FaaSでもイベントドリブンの仕組みを利用します。
通常のユーザー操作によるインプットやアウトプットのみならず、エラーが発生したときもトリガーとすることができ、幅広く活用できます。
コンテナベースのサーバーレス
コンテナベースのサーバーレスは、Kubernetesのようなコンテナをベースとしたサーバーレスのことです。コンテナは、サービスやアプリケーションを実行できる環境をもつため、コンテナベースのサーバーレスではこのコンテナの環境を活用します。
開発者は、コンテナのもつ生産性向上や起動時間が速くなるメリットと、サーバーレスの利便性を組み合わせた形でアプリケーションを構築できます。
クラウドサービスとの違い
サーバーレスとほかのクラウドサービスとの違いについて解説します。
PaaSとの比較
PaaS(Platform as a Service)とは、アプリケーション開発に必要なプラットフォームをクラウド上で提供するサービスで、大規模なアプリケーション開発と運用に適しています。ストレージやネットワーク機器などのインフラ管理はクラウドサービス事業者が担います。
一方で、サーバーレスの一種であるFaaSは、個別の関数または機能をクラウド上で実行し、その実行に必要なサーバー管理を完全にクラウドサービス事業者に委ねるモデルです。サーバーレスは実行した機能の使用量にもとづく課金モデルを採用しているため、小規模なタスクに対してもコスト効率が良く、PaaSよりもコストを抑えられる傾向があります。
また、サーバーレスはサーバーの管理を完全に自動化し、開発者はインフラについて考える必要がなくなります。一方でPaaSは、インフラの管理は簡素化されるものの、アプリケーションのスケーリングや設定などの調整は利用者の責任で行わなければなりません。
IaaS、SaaSとの比較
IaaS(Infrastructure as a Service)とは、仮想マシンやストレージなどのインフラストラクチャをクラウドサービスとして提供する仕組みです。利用者は仮想マシンのセットアップやネットワーク構成などを自ら行う必要があります。
SaaS(Software as a Service)は、ソフトウェアやアプリケーションをクラウドサービスとして提供する仕組みであり、利用者はソフトウェアをすぐに使用できます。インフラやプラットフォームの管理はクラウドサービス事業者が担うため、利用者は関与しません。
サーバーレスは、アプリケーションの機能やイベントのタスクに焦点をあて、サーバー管理の必要性を最小限に抑えるのが特徴です。IaaS、SaaSがインフラやソフトウェアを提供するのに対して、サーバーレスの一種であるFaaSは、特にアプリケーション層における開発の効率化を目的としているため、提供範囲が異なります。また、コスト面では、一般的にIaaSやSaaSはサーバーレスよりも高くなります。
各サービスが提供する範囲は、次のように異なります。
サーバーレスの主要なメリット
ここでは、サーバーレスの主要なメリットを解説します。メリットを理解することで、業務のなかで活用するイメージが明確となるでしょう。
スケーラビリティ
サーバーレスは、サーバーの処理能力を状況に合わせて自動的に増減できるスケーラビリティを提供しています。そのため、アプリケーションのトラフィックや負荷に応じて自動的にリソースをスケールアップ・ダウンすることが可能です。
従来の物理的なサーバーの場合、サーバーの構築時に設定した処理能力を変更するためには再構築が必要となります。一方サーバーレスでは、リソースの調整が迅速かつ自動的に行われます。柔軟性が高く、リソースの過不足によるサービス停止などのリスクを低減できます。
コスト削減
サーバーレスは従量課金制のため、必要なリソースのみを使用することでコストを最低限に抑えられます。従量課金制に対応していなければ、リソースの使用量に関わらず一定の料金がかかるため、無駄なコストが発生しやすくなるでしょう。
サーバーレスでは、アプリケーションの使用状況にもとづいて自動的にリソースがスケーリングされます。これにより、過剰なリソース確保による無駄なコストの削減が可能です。
管理の簡素化
サーバーレスは、クラウドサービスの事業者がサーバーの管理を行うため、開発者はサーバーの管理を簡素化できます。また、物理的な機器を保有・運用する必要がなく、担当者の負担軽減につながります。
さらに、自動的にメモリ使用量、ディスクI/O、応答時間などのパフォーマンスが最適化されるため、パフォーマンスの管理を行う手間も省けるでしょう。
生産性向上
サーバーレスを活用することで、開発者は開発作業に集中できます。たとえば、Webアプリケーションの場合、従来の開発ではサーバーの選定、OSのインストール、ミドルウェアの設定、セキュリティパッチの適用など、アプリケーション開発以外に多くの時間を割く必要がありました。これらの作業は、特にインフラの知識が限られている開発者にとっては大きな負担となり、開発の遅延やリソースの浪費を招く要因となりえます。
サーバーレスは事業者がインフラ関連の作業を行うため、開発期間の短縮と生産性の向上に貢献します。
セキュリティ性の向上
サーバーレスは、サーバーのセキュリティ対策もクラウドサービスの事業者が行います。通信内容の暗号化やデータセンターの状態の監視など、最新のセキュリティ脅威に対して常に更新されたセキュリティ対策が行われます。
専門性の高い事業者により最新のセキュリティ脅威に対応することで、自社で対策を行うよりもセキュリティの強化を実現可能です。
サーバーレスの主要なデメリット
サーバーレスには多くのメリットがありますが、懸念すべきデメリットも存在します。
ここでは、サーバーレスの主なデメリットについて紹介します。
コールドスタート問題
コールドスタート問題はサーバーレスにおいて、特にFaaSでよく見られる課題です。
FaaSでは、初めて関数が実行される際にセットアップが必要です。これはコールドスタート問題と呼ばれ、初回の処理実行時に遅延が発生します。
この遅延は、アプリケーションのレスポンスタイムに影響を与え、ユーザーエクスペリエンスを低下させるおそれがあります。そのため、リアルタイムでの応答が求められるアプリケーションにおいては、この遅延が許容できない場合があるでしょう。
ベンダーロックイン
ベンダーロックインとは、企業のシステムが特定のベンダーに過度に依存し、ほかのベンダーへの依頼が難しくなっている状況です。
サーバーレスのサービスは、クラウドサービスの事業者ごとに独自のAPIや機能をもっているため、ベンダーロックインの状況に陥る場合があります。その結果、将来的にほかのプラットフォームへの移行を考える際、コストや労力の増大を招きかねません。
デバッグとモニタリングの課題
サーバーレスでは、アプリケーションが分散して実行されるため、従来のローカル開発環境と比較してデバッグが複雑となる場合があります。
また、複数のサービスが動作することから、モニタリングが難しくなりがちです。これらの課題に対応するためのツールも提供されていますが、依然として難易度は高いといえるでしょう。
テストの難易度が高い
システムの性能テストを行う際、サーバーレスではコールドスタート問題が発生するため、ローカル環境とクラウド環境の実行結果が異なり、正確な性能を計測できない場合があります。
また、ローカルの開発環境で行ったテストが、クラウド環境で品質を保証できなくなるおそれもあります。
長時間の処理には向いていない
多くのサーバーレスは実行時間に制限があり、上限を超えると処理が中断されるため、実行時間を意識して使わなければいけません。
また、従量課金制であるため、長時間の処理を行うとコストがかさんでしまいます。長時間の処理を伴う場合は、設定している実行時間の上限内で完了するかを確認したり、より小さい単位に分割して処理を実行したりする対策が必要です。
サーバーレスを導入・運用する際の留意点

サーバーレスを導入・運用する際の留意点について解説します。
ネットワークセキュリティ対策の実施
サーバーレスは、インターネットを介してクラウド環境のサービスを使用するため、ネットワークセキュリティは非常に重要です。多くの場合、外部のクラウドサービスと統合し、APIを介してデータをやり取りするため、不正アクセスやデータ漏えいなどのサイバー脅威のリスクを増加させます。
そのため、ネットワーク上にウィルス対策ソフトを導入するなどのセキュリティ対策を施すことが重要です。ウィルス対策ソフトを導入すれば、ネットワーク上のウィルスやサイバー攻撃による影響を抑えられます。
コスト構造の理解
サーバーレスでは、実行回数や実行時間、リソース使用量が多いほどコストも高くなります。そのため、意識しないままアプリケーションのスケールに伴い、リソース量が増加するケースは少なくありません。
正確にコストを管理するためには、リソース使用量を常に監視し、不必要なトリガーや関数の実行を避けることが大切です。例えば、関数の実行時間が短縮できれば、その分だけコストを節約できます。また、特定の時間帯にのみリソースをスケールアップするスケジューリングを採用することも、コスト効率の向上に寄与するでしょう。
データの永続性
サーバーレスでは、関数の実行が終了するとその実行環境やローカルに保存されたデータは消滅するため、データの永続性が担保されません。データの永続性を担保するためには、データベースを利用するなどしてデータを保持する必要があります。
たとえば、Amazon DynamoDBのようなクラウドサービスの事業者により用意されたデータベースを活用することで、難しい設定をすることなくデータの永続性を確保できます。
また、データの永続性を確保するためにはバックアップや同期など、データ保護の施策の検討も重要です。これにより、データの整合性、可用性、セキュリティを保ちながら、サーバーレス環境でのアプリケーションの要件を満たすことが可能になります。
制約事項の確認
多くのサーバーレスでは、メモリやCPU使用量などリソースの使用状況に上限を設けています。制限を超えると、追加料金の発生やリクエストが拒否される場合があるため、適宜リソースの使用を調整することが重要です。
また、特定の時間内に実行できる処理の回数や、処理の実行時間などにも制約があります。サーバーレスを使用する際は、これらの制約事項を必ず確認しましょう。
ログの確認
サーバーレス環境でのデバッグや問題解決にはログ情報が不可欠です。サーバーレスでは、エラーログやイベントログなどのログを使用します。
ログに特化したサービスであるAmazon CloudWatch Logsを活用することで、ログの検索や監視の効率化、アプリケーションの問題に素早く対処できるでしょう。
サーバーレス導入がおすすめの企業

ここでは、サーバーレス導入がおすすめの企業の特徴を解説します。自社にサーバーレスの導入が必要かどうかを判断する際の参考にしてください。
サーバーアクティブな時間帯が短い
従量課金制であるサーバーレスは、サーバーの利用時間が限られた時間帯に集中している企業におすすめです。アクティブな時間帯を最小限にすることで、発生する費用も最小限に抑えられます。
また、サーバーレスはリソースの自動スケーリング機能により、需要が変動するビジネスモデルにも柔軟に対応できます。
小規模な開発が多い
サーバーレスの一種であるFaaSは、小規模プロジェクトやマイクロサービスに最適です。開発者は小さなモジュールごとやファンクションごとにアプリケーションを構築、デプロイでき、迅速な開発サイクルを実現します。
また、小規模な開発では、運用面においても簡素に行いたい場合があります。サーバー管理が不要なサーバーレスであれば、効率的かつ簡素な運用が可能となるでしょう。
インフラに知見があるエンジニアが少ない
サーバーレスでは、クラウドサービスの事業者がサーバーの管理を行うため、インフラに知見があるエンジニアが少ない企業でも容易に導入できます。サーバーレスを導入すれば、エンジニアのリソースをアプリケーション開発に集中させることが可能です。
必要最低限の人員で開発を進められるため、コスト削減にもつながります。
スタートアップ企業
スタートアップ企業は、資金やリソースが限られているため、インフラにかけるコストを抑えたい企業が多いでしょう。サーバーレスであれば、初期コストを抑えて導入できます。
また、ビジネスの成長に合わせて容易にスケールアップできる点も魅力です。
短期間の業務を行うことが多い企業
サーバーレスは、必要なときに必要なだけ使用できるため、期間限定のプロモーションやイベントによるトラフィックの急増などが予想される、短期間の業務を行う企業に向いています。
サーバーレスを活用することで、コストが最適化され、不要なコストを抑えられるでしょう。業務で使う短期間のみサーバーレスを利用し、業務で使わない間は稼働させないという使い方が可能です。
代表的なサーバーレスサービス

AWSサービスを例に、代表的なサーバーレスサービスを解説します。
AWS Lambda
AWS Lambdaは、AWS(Amazon Web Services)のサービスで、サーバーレスの一つであるFaaSに該当します。クラウド上にプログラムを配置し、指定されたトリガーに応じて自動的に処理を実行します。
JavaやPython、C#、Rubyなどさまざまなプログラム言語に対応しているため、多様な開発環境での利用が可能です。
Amazon S3
Amazon Simple Storage Service(Amazon S3)は、クラウド上のストレージサービスです。データの保存やバックアップなど幅広い用途に利用できます。
AWS Lambdaと連動させ、AWS Lambdaのプログラムの処理結果をAmazon S3に保存する用途にも活用できます。
Amazon DynamoDB
Amazon DynamoDBは、フルマネージドなNoSQLのデータベースです。NoSQLとは、リレーショナルデータベースとは異なる方法で、データを扱うデータベースを指します。
Amazon DynamoDBも、AWS Lambdaと連動して活用でき、プログラムとデータベースを連動させてサーバーレス内で動的なデータ処理を行うシステム構築が可能です。
Amazon API Gateway
Amazon API Gatewayは、APIの作成や公開、保守、監視、保護を行うサービスです。作成できるAPIには、REST API、HTTP API、WebSocket APIの3タイプが存在します。
また、Amazon API Gatewayは、APIのパフォーマンスを確認できるモニタリング機能も備えており、問題が発生した際も迅速に状況を把握できます。
AWS Amplify
Amazon Amplifyは、AWSにより提供されるフロントエンドとモバイルアプリケーション開発を容易にするためのフレームワークです。フレームワークとは、システムを開発する際に、基本的な枠組みがあらかじめ提供される仕組みを指します。
AWS Amplifyを活用することで、ベースラインが整った状態から開発を進められるため、より生産性の高い開発が実現します。
まとめ~サーバーレスで生産性アップ~
システムを開発するためには、様々な工程および多くの時間と費用が必要です。サーバーレスを導入することで、サーバーの管理を行う必要がなくなり、時間と費用を大幅に削減できます。
開発者はプログラミングのような開発の中心となる作業に集中できるため、生産性の向上にもつながるでしょう。ぜひこの記事を参考に、サーバーレスの導入を検討してみてください。